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子ども達に安全・安心を届けるために(前編)

田嶌誠一教授の最終講義から学んだこと

2月13日、九州大学箱崎キャンパスにて田嶌誠一教授の最終講義を受けてきました。
田嶌教授は、臨床心理の分野においては「壷イメージ法」という療法を考案された方としてご高名ですが、一介の弁護士がなぜ教授の最終講義を受けたかというと・・・。
児童の社会的養護の課題、特に児童養護施設内で起きる暴力の問題に対して、教授が考案した「安全委員会方式」が導入されたという事案に行き当たったことがきっかけでした。

(以下、講義内容を要約。文責は柏熊。)

人の内面にアプローチする臨床心理の専門家が、どうして施設内の暴力問題に取り組むことになったのか。
教授は、外来で相談に来られる人たちはまだラッキーだ、本当に困っている人は孤立していて相談すら出来ない、そうした人たちにアプローチしていくには人の内面を探求するだけでは限界があるとしてネットワークを活用し、孤立している人達の居場所を作るべく精力的に実践していきます。
スクールカウンセラーとしてはいわゆる“困難校”で実践を積み、不登校児童に対して積極的に家庭訪問したといいます。「行ってもいい?」と聞くのではなく(そう聞いたら「いやだ」と言われるに決まっているから)、「行くからね。」と連絡を入れて家庭訪問を繰り返す。最初は会ってくれなかった子も何度も来るおじさんのことを無視することができなくなり、ようやく部屋のドアが開かれたとのこと。

そうした実践の中で、教授はさらに、ある子ども達には切実なニーズがあることに気付きます。
それは児童養護施設にいる子ども達です。

児童養護施設内における暴力の問題は古くからあったものの、職員から児童への暴力だけではなく、真実は、児童から職員への暴力や児童間の暴力も多いという実態を目の当たりにします。教授は、この施設内暴力の問題が、どの都道府県の施設にも起こっていることで(もちろん暴力のない優良な施設もありますが)地域の実情に関係なく、当該施設内のみでは対処できない構造上の背景がある、ということに着目しました。
人間の発達過程には5段階の欲求があると言われており(マズローという学者が提唱)、生理的欲求(食欲や睡眠、排泄)、次に安全欲求(安全なところで安心して過ごしたい)、その次に愛着欲求(甘えたい、愛されたい)、その次に承認欲求(人や社会から認められたい)、最後に自己実現欲求(自分が選んで進む道の中で自分の価値を高めていきたい)というステップを順に進んでいくが、暴力にさらされている施設内の子ども達は第二段階の安全欲求のところで助けを求めている、暴力行為の当事者(加害児も被害児)に入所前の虐待が原因で愛着障害があるとかないとか、そういうことが問題なのではないということ、その前段階の安全欲求の部分を満たさないことには、子ども達の成長のサポートができないということでした。

教授は暴力が発生する構造上の問題として、児童養護施設に入所している子ども達は、自分の意思にかかわらず所属しており出入りの自由度が極めて限られている、いわば「ここにいることが不本意である」人間の集団であり、また、自分の思いを伝える手段として言葉を使うことが苦手であるという特徴も加わって、何かあればすぐに手が出る、暴力が深刻化しやすい、ということを分析しました。(したがって、この所属における不本意性という側面から、児童養護施設だけではなく、学校の寮や軍隊、精神病院なども同様のことが当てはまると考えられるそうです)。
また、加害児はかつての被害児であり、暴力が連鎖しているという問題もありました。

施設の子ども達は、甘えたいとか、愛されたいとかそういうこと以前に、とにかく安全なところで安心して暮らしたい、という切実な願いを持っている。この切実な願いに応えるべく、教授は、この構造上の問題として起こりうる暴力問題に対して、組織を上げて取り組む必要がある、として「安全委員会方式」というものを考案しました。

新たな被害児を生み出さないようにするべく(それはひいては将来の加害児も生み出さないことにつながる)徹底した取組みを始めました。

ちょっと長くなったので、また時間のあるときに続きを書きます。

柏熊志薫
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