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釜山弁護士会との交流② ~養育費確保のための諸制度 [離婚]

引き続き、釜山訪問について。

討論会での第2のテーマは養育費問題でした。
日常業務の中で、最も痛切に制度改革が必要と感じる分野なので、討論テーマにしてもらい、報告を担当しました。

●まず日本の問題から。
これは、主に、
①取り決め自体少ない、②金額が低い、③不払いへの対処が困難という点です。

○取り決め自体少ない
取り決めること自体が少ないのは、離婚の制度によるところが大きいです。
日本では、養育費を決めなくても協議離婚ができますが、このように当事者間で自由にできる協議離婚は、諸外国では一般的というわけではありません。
自由…と言えば聞こえがいいですが、裏を返せば、力関係次第ということ。
「もめたくない」「応じてくれないから」と養育費を取り決めずに離婚するケースも多々あります。
統計では、養育費の取り決めがされたのは、母子世帯で37.7%、父子世帯で17.5%。
離婚種別でいえば、協議離婚で30%に対し、裁判所が関与する離婚(調停・和解・判決)では74%。裁判所の関与の有無で全然違います。
が、裁判所が関与するのは離婚の1割強に過ぎません。

○金額が低い
日本では、養育費の額は、簡易算定方式で算定します(検索ワード「養育費・簡易算定表」)。けれども、この方式は、文字通り「簡易迅速な算定」を目的に作られたもので、子どもの育ちに必要な水準という観点に欠けているので、金額が、単身世帯の父親の手元に残る額に比較して低く、特に教育費がかさむ中高生ではその低さが目立ちます。

○不履行への対処が困難
さらに、不払の場合の有効な手立てが乏しく苦労させられます。
給料や預金を差し押さえ(強制執行)できますが、勤務先や預金先が分からないと手続ができません。
そのため、継続して支払われている割合は、母子世帯で20%程度という実情です
(前述のとおり、取り決め自体が少ないので、逆に、取り決めがあるケースでは過半数は払われているということになりますね)。

こうした実情が、離婚後の母子家庭の貧困の一因ともなっており、早急に、きちんと支払われるよう制度改革が必要です。

●韓国では…
この点、韓国では、以下のような制度となっています。

◎取り決め段階 ―裁判所の関与
韓国では、数次の法改正により、協議離婚が厳格化されています。
まず、家庭裁判所で協議離婚の意思の確認手続が必要です。
具体的には離婚に関する案内を受講した上、熟慮期間の経過(子どもの有無により1カ月または3カ月)と、養育費や面会交流に関する協議書か家庭裁判所審判の提出が必要です。協議書の内容が子の利益に反する場合はつき返されます。
このように、協議離婚といっても、当事者の力関係に委ねず、子どもの利益を守るために積極的に国が介入する制度になっています。
なお、熟慮期間はDVなど緊急の場合は短縮があります。

◎金額 ―子の養育に必要な額という観点
算定表がある点は日本と同じですが、日本と違い、両親の合計所得の水準ごとに、両親が負担すべき養育費の上限・下限が記載され、具体的な分担は両親の経済状況により決められます。
子どもの年齢層ごとに金額が決められており、日本の算定表より高額です。
例えば、合計所得300万円台の場合、3~5歳で7.3~9万円、15~17歳で11.5~12.3万円程度です
(子ども1人の場合の例。この額を夫婦で分担する)。
写真.JPG

◎不履行への対処 ―養育費履行確保のための法律
通常の強制執行の他に、以下のような履行確保のための制度があります。
・財産明示・財産照会制度
 …裁判所による財産リストの提出命令、関係機関への財産照会
・直接支払命令
 …2回以上不払の場合、裁判所の命令により、雇用主から直接養育費を払わせる制度
・担保提供命令
 …支払う者の不払や資力の変動に備え、不払を受けて、裁判所による支払義務者に対する担保提供命令制度
・一時金支払命令
 …不履行時の制裁として、担保提供命令に応じない場合、全部または一部を一時金で払うよう命令できる制度
・制裁強化
 …養育費の不払や財産目録の提出拒否などの義務違反に対し、上限70万円規模の過料の制裁や、一時金支払命令に応じない場合、身柄拘束が可能となる制度。

以上に加え、2014年に養育費の履行確保のための法律が制定され、国の専門機関が設置されました。

このような制度の下で、養育費支払は義務としてきちんと確定すれば、支払われる割合は73%とかなり高いそうです。
ただ、まだ支払確保のための制度が十分知られていないので、周知して権利行使につなげることが課題とのこと。

質疑応答では、日本には、養育費の不払に対して特段のペナルティがないということに、かなり驚かれました。

韓国では、2000年代に養育費の不払が社会問題になって、これら支払確保のための制度が次々に整いました。
翻って日本では、目下、債権一般について強制執行の強化のため、裁判所を通じた口座情報開示制度の導入について検討が始まったところです。
その早期実現と共に、特に子どもの育ちに不可欠な養育費の重要性から、適切な金額水準への引き上げや、特に支払を確保するための方策や強力なペナルティを導入するなど、子どもの福祉の観点からの制度改革が強く望まれます。

相原わかば
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